Premiere Proワークショップ教材を作った裏側 – エンジニアが動画編集研修に挑んだ記録
「Premiere Proの入門研修を作ってほしい」という依頼が来たとき、正直なところ戸惑った。
私はエンジニアだ。Premiere Proは仕事でもたまに使うが、本業というわけではない。「動画編集のプロ」では全くない。それでも「2日間の入門研修」の教材と進行を任されることになった。
「なぜ私に頼む?」と聞いたら、「技術の教え方が上手いから」という返答だった。対象者はMac使いの非デザイナー職で、初めてPremiere Proを触る人ばかり。そういう人への教え方として、「デザイン畑の人より、エンジニアの方が向いているかもしれない」という判断だったらしい。
依頼を受けてから納品まで約3週間。その裏側を書いていく。
最初にやったこと:逆算設計
教材を作る前に「2日後のゴール」を決めた。
Premiere Pro入門と言っても、何ができれば「入門完了」なのかは人によって違う。今回の対象は会社のYouTubeチャンネル用の動画を制作担当する予定の社員たちだったので、ゴールはこう決めた。
> 研修終了後、一人でインタビュー動画(5分以内)を書き出しできる状態になる。
「編集できる」ではなく「書き出しできる」にしたのは、書き出しは編集の全工程が正しくできていないと完了しないから。逆算すると、必要なスキルが見えてくる。
このリストが2日間のカリキュラムの骨格になった。
Premiere Proの「罠」を先に洗い出す
教材を作る前に、初心者がつまずきやすいポイントを自分でリストアップした。これはエンジニア的なアプローチで、「バグになりやすい箇所を先に特定しておく」感覚に近い。
Premiere Proで初心者がハマりやすいポイントをいくつか挙げると、こういったものがある。
シーケンス設定のミスマッチ
素材の解像度やフレームレートとシーケンスの設定が合っていないと、書き出し後に画質が劣化したり、フレームがガタつく。初心者はここをほぼ100%見逃す。
オーディオの同期ずれ
長い動画を編集していると、音と映像がじわじわずれることがある。Auto Reframe機能やリンク解除操作を誤ると発生しやすい。
書き出し設定の迷宮
書き出し設定の選択肢が多すぎて、何を選べばいいか分からなくなる。H.264でYouTube向けに書き出すだけでいいのに、プリセットが何十種類もあって混乱する。
これらを教材に「よくあるトラブルと解決策」コーナーとして入れることにした。
教材の構成
今回の教材もHTMLで作った。理由はPremiere Proはスクリーンショットが多くなるためで、HTMLの方がレイアウト調整が楽だった。
各章の構成はこのパターンで統一した。
1. この章でできるようになること(30秒で読める概要)
2. 手順(スクリーンショット付きのステップバイステップ)
3. よくあるトラブルと解決策
4. 練習課題(素材ファイル付き)
「この章でできるようになること」を最初に書いたのは、参加者が「今自分は何を学んでいるか」を常に把握できるようにするためだ。長い手順を読んでいると、途中で「これ何のためにやってるんだっけ」となりやすい。
スクリーンショットは全て撮り直した。Premiere Proのバージョンが新しくなるとUIが変わることがあるため、「今回使うバージョンで撮影した最新のスクショ」を用意した。ネットで見つかる参考資料のスクショが古くて「画面が違う」となるのを防ぐためだ。
After Effectsも少し入れた
Day 2の後半に、After Effectsの簡単なモーショングラフィックス制作もオプションで入れた。
Premiere Proだけで完結する予定だったが、「テロップをもう少し格好よくしたい」という声を想定して、After Effectsとのダイナミックリンク連携を15分ほど紹介するコーナーを設けた。
After Effects → Premiere Pro のダイナミックリンク
1. After Effectsでコンポジションを作成
2. 「ファイル > Adobe Dynamic Linkで読み込み」
3. Premiere ProのプロジェクトパネルにAfter Effectsコンポジションが表示
4. タイムラインに配置して編集
これは「こんなことができる」という紹介に留め、深追いしなかった。2日間の研修に詰め込みすぎると消化不良になるため、「気になる人は研修後に調べてみてください」というスタンスにした。
練習用素材をゼロから用意した
参加者に練習してもらうための素材が必要だったため、自分で撮影・録音した。
「適当なサンプル動画でもいいじゃないか」と思うかもしれないが、研修に使う素材は「研修の目的に合わせた内容」にすることで、「どんな場面でこの操作を使うのか」が直感的にわかる。YouTubeチャンネル用のインタビュー動画を作る研修なら、インタビュー動画の素材を使うべきだ。
実施してみた感想
研修を終えて、正直な感想を書く。
よかったこと:「書き出しできる」というゴールを最初に明示したことで、参加者が迷わず進められた。Day 2終了時には全員が練習素材を使った5分動画を書き出しできた。
難しかったこと:Macのスペックにばらつきがあり、スペックの低いMacでは書き出しに時間がかかって待ち時間が発生した。MacのOSバージョンによってPremiere Proのショートカットキーが一部動作しないケースもあった。
意外だったこと:「カラー補正」への関心が高かった。素材をLumetriカラーでちょっとシネマ風に補正するデモをやったとき、参加者の反応が一番盛り上がった。「なんか映画みたい!」という感想が出て、それがモチベーション向上につながった場面だった。
エンジニアが技術研修を担当することの意味
振り返ってみると、「エンジニアがPremiere Pro研修をやる」という組み合わせは悪くなかった。
デザイン畑の人がやると「感覚的に良い動画を作る」方向になりやすいが、私の場合は「手順を言語化して、誰でも再現できる形にする」方向に自然となった。
Premiere Proを「ツール」として見て、そのツールの使い方を「手順書」として整理する。この視点はエンジニアリングの考え方そのもので、初心者への技術教育に向いていた。
次回依頼が来たら、もう少しトラブルシューティングのパートを厚くしたい。「うまくいかなかったときの対処法」を知っている人は、一人でも進められる。それが「研修終了後も続けられる」につながる。
まとめ
Mac向けPremiere Pro入門2日間研修の教材を作った。
「専門外でも教えられるか」という不安があったが、「手順を言語化する能力」はどの技術領域でも使えることが確認できた。技術の教え方自体はツールを問わないと気づけたのが、今回の一番の学びかもしれない。